福岡で開催された水泳の国際大会にて、代表の森下がフィジオサポートを行いました。
概要
今回、2023年7月14日~7月30日に福岡で開催された水泳の国際大会において、選手の身体のメンテナンスに対するフィジオ業務のご依頼があり、
・7月22日~7月24日のハイダイビング競技選手のサポート
・7月25日、7月27日の競泳競技の選手サポートをすることとなった。
ハイダイビング競技の試合日程は7月25日~7月27日だったものの、選手のダメージが試合までに抜けない可能性があるとの事で、練習日である7月22日~7月24日までの練習期間にサポートに入った。
今回ハイダイビングのサポートに入った理学療法士は全体で5名であり、練習日に3名、試合当日に2名の体制でサポートにあたった。
選手とのやりとりについては、言語の問題も考えられたものの、ボランティアスタッフによるサポートが手厚く、通訳や選手の順番待ち等うまくサポートしてくれたことで混雑することなくフィジオサポートに集中することができた。
事前の準備物として、様々な怪我が想定されることからテーピングやバンテージ、救急処置用具等をもって活動に参加した。
飛び込みにおいて、様々なひねりや体幹の屈曲姿勢、空中での姿勢保持等多くの身体操作や筋出力を必要とすることから多くの慢性疼痛を抱えていることが考えられる。また、高さ27m、着水までの時間約3秒、時速100kmにまで達するとされる競技であるため、着水時に様々な外傷があり得る。外傷を防ぐ為にも選手は、着水の衝撃に備え、両手を握り、肩を前方でたたみ、しめる姿勢をとる。その姿勢をとることと、頸部を緊張させて着水のダメージを軽減するため、頸部周囲の筋肉の過緊張が多くの選手にみられた。また、選手のバックグラウンドとして体操競技やトランポリン、高飛び込み競技をしていることなど、身体への負荷が強い競技であることも影響し慢性疼痛が多くの選手にみられた。
サポート会場
ここからは実際のサポートについて触れていく。
練習日初日、7月22日は朝8時からハイダイビング競技の運営の挨拶から選手全体のミーティング、運営側のミーティングが行われた。選手の控室は約250㎡ほどある仮設施設で冷房や提携している会社のスポーツドリンク、水、パンやフルーツなどの軽食が準備されていた。トレーニング機材としては、飛び込みイメージ用のクッションマットが2つ、エアロバイク5台がヨガマットが数十個、他会場や競技場の確認をするテレビが3台準備されていた。フィジオのブースはベッドが3台とバスタオルが約20枚ほど簡易仕切りで外からは見えにくくされていた。日本文化に触れることができる、けん玉や浴衣、だるま落としなど選手がリラックスできるブースも準備されていた。
フィジオのユニフォームは指定されたスポンサー企業の物であり、活動中や会場内では常時着用となっていた。
実際のサポートについて
サポート活動初日、各国の選手たちから朝挨拶にきてくれたり、後で身体をチェックしてほしいと話してくれたりとリラックスした雰囲気で少しずつ依頼が増えていった。日本代表の選手も自ら挨拶に来てくれたりと選手のほうからも一緒に雰囲気を作ろうとしてくれていた。
練習初日は、午前中は女子選手がハイダイビング練習、午後が男子となっていた。午前中は男子選手も女子練習の見学に行っていたためほとんどの選手のオファーはなかった。午後の男子練習後に数名の選手がフライトの疲れや身体の張りを落としてほしいとオファーがあった。実際には、ストレッチやダイレクトマッサージを中心に数名の選手をサポートした。実際に練習後のダメージよりも全身の疲労感といった感じであった。専属のフィジオや代表から派遣されているフィジオなど選手の経歴やスポンサー状況、各国の支援状況に応じて違いが生じており、大会のフィジオとして招集を受けた我々理学療法士陣は様々な国の選手のサポートを実施した。
2日目は、初日と比較し、複数名の選手のサポートを実施した。
印象が強かったのは、南米の代表の選手やヨーロッパの代表の選手が飛び込み競技において、着水に失敗し、内転筋の挫傷や後頚部の捻挫がみられたことである。
南米の選手については、「気持ちが高ぶってしまい着水が乱れてしまった。どんな落ち方をしたか分からないが明日首が痛くなるのは感じる」との事だった。頸部の動きを確認したところ前屈や後屈、左右の側屈において後頚部全体の痛みを訴えていたことと、肩甲骨周囲の過緊張、胸郭の動きの悪さが出ていたため、動きを確認しながら、筋肉の過緊張部分のケアとしてダイレクトマッサージとストレッチ、簡単な体操などリラクゼーションを中心に実施した。セラピー後は頸部の動き、痛みも軽減していた。翌日への影響も考慮し頸部のサポートをする目的で後頚部にテーピングを実施した。翌朝、選手は笑顔で現れ「昨日の痛みはかなりなくなっている。」と伝えてくれ、練習に参加することができていた。スポーツ現場において、選手の怪我がなくフィジオの出番がないことが現場にとっては最善である。しかしながら、我々がバックアップ体制をとることで、選手の安心感となることや有事の際にサポートをすることで早期復帰につなげることは大変意味のあることと考える。
内転筋の挫傷をした選手については、大きな痛みではなく歩行や走行に問題はなかった事もあり、組織の二次的損傷を抑える目的に周囲組織のコンディショニングとRISE処置、テーピングによるサポートを実施した。
3日目 練習最終日
初日や2日目にサポートした選手は継続して対応したフィジオに「今日も頼むよ」といった感じで依頼が多くみられた。選手達は大きなトラブルなく、コンディショニング目的の依頼がほとんどであった。初日にサポートした内転筋挫傷をした選手については、痛みは減っているが臀部が張っているとのことであった。フィジカルチェックと問診を行った後、昨日の受傷からの代償動作等による筋疲労によるものと判断しコンディショニングを実施した。また、内転筋部へのテーピングは筋自体の収縮をサポートする目的に初日とは違う方法でサポートを実施した。
競泳選手のサポート
競泳競技においても海外の選手のサポートを中心に実施することとなった。
当該選手が出場する全試合が終わった後ということもあり、選手自身かなりリラックスした状態だった。
既往歴や現病歴等確認後、現在の状況やコンディション、日常的なサポート体制など確認したあと、軽いフィジカルチェックを行った。両肩の受傷歴があり、肩甲骨周囲の動きに不十分さがみられた。日々の行っているケア内容やウェイトトレーニング内容等実際に動作を交えて確認しながら、身体のストロングポイントやウィークポイントを一緒に確認していった。実際のトレーニングを一緒に行うことで、選手自身気が付いていなかった部分にも気が付いたと伝えてくれた。実際にコンディショニングを行ったあと、選手からは、自国に帰ってからのトレーニングやケアについて教えてほしいと打診があったため、一緒に現状のチェックとセルフトレーニングを確認した。
最後に今回の活動を通じて得たもの
今回の活動を通じて、様々な国の選手と交流することができた。
私は英語が得意ではなかったものの言葉以外でのコミュニケーションやアプリケーションを交えながら交流を行うことで、様々な心理的障壁を超えてサポートすることができた。
身体の作りのみではなく、文化の違いや困りごとの伝え方、感じ方など日常では関わることのできないものであった。
選手達のみではなく、それをサポートするスタッフ陣、関係者、すべての人が前を向いていい大会にする、全力を出す、やりきるといった姿勢がみられていたことがとても刺激になった。
自身今後は、世界中のスポーツ選手のサポートや育成、子どもの身体作り、発達支援など多くのことにさらにチャレンジしていくとともに、若い理学療法士やそれらを目指す学生を導く存在になれるようチャレンジを続けていく。